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制振装置には「効く順番」があります※少しマニアック 11
「耐震等級3を取得しています」「制振装置を搭載しています」
家づくりの打ち合わせや会社のホームページで、こうした言葉を目にすることが増えました。
ただ、少し立ち止まって考えてほしいことがあります。
耐震等級3は本当に「どれも同じ基準」なのか。制振装置は「搭載していれば何でも同じ」なのか。
答えはどちらも「No」です。
この記事では、木造住宅における地震対策の考え方と、制振装置の種類・選び方について正直にお伝えします。住宅会社から説明を受ける前に知っておくと、判断の精度が大きく変わります。
■ まず「免震・耐震・制振」の違いを整理する
地震対策の工法には、大きく3つの種類があります。
・免震:
免震装置により、地震の揺れを建物に「伝えない」工法。建物と地盤の間に装置を設置し、揺れを遮断する。
・耐震:
耐力壁などで、地震の揺れに「耐える」工法。現在の木造住宅の基本構造。
・制振:
制振装置により、地震の揺れを「吸収する」工法。耐震構造と組み合わせて使う。
この3つの中で、木造住宅に免震はあまり向いていません。理由があります。
免震装置は、建物の重さ(自重)を利用して地震の揺れを遮断する仕組みです。鉄骨造やRC造のような重い建物には効果的ですが、木造住宅は軽いため、免震装置を設置すると今度は風圧力で建物が動いてしまう可能性があります。重い荷物は滑らないが、軽い荷物は少しの力で動いてしまうイメージです。
そのため木造住宅では、耐震+制振の組み合わせが現実的かつ有効な選択肢となります。
■ 「耐震」と「制振」はトレードオフしない

「制振装置を入れれば耐震は少し落としてもいいのでは?」という考え方を耳にすることがあります。これは誤りです。
耐震と制振の関係は、車の「ブレーキ」と「エアバッグ」の関係と同じです。
ブレーキ性能を落としてエアバッグだけ充実させても、安全な車とは言えません。ブレーキはブレーキとして十分に機能させた上で、エアバッグはさらなる安全のために加える。この順番と位置づけが重要です。
耐震と制振も同じです。まず耐震性能を十分に確保した上で、制振装置を加える。この順番を間違えてはいけません。
■ 耐震等級3の「中身」を確認する
制振装置の話に入る前に、耐震性能の確認方法についても整理しておきます。
同じ「耐震等級3」でも、その取得方法によって構造的な根拠の深さが異なります。
・仕様規定(最低基準):
壁の量や配置などを基準に沿って確認する簡略的な方法。取得のハードルが低い。
・品確法の計算:
仕様規定より詳細だが、許容応力度計算ほどではない中間的な方法。
・許容応力度計算(構造計算):
建物全体にかかる力を一棟一棟詳細に計算する方法。最も精緻に構造の安全性を確認できる。
許容応力度計算で取得した耐震等級3と、仕様規定で取得した耐震等級3では、同じ「等級3」という言葉でも構造的な根拠の深さが大きく異なります。
制振装置を検討する以前に、まず許容応力度計算による耐震等級3かどうかを確認すること。
これが最初の、そして最も重要なステップです。
■ 制振装置の種類。速度依存型と変位依存型の違い
住宅用の制振装置(層間ダンパー型)には、大きく2種類があります。
変位依存型(壁倍率「あり」)
建物の変形量(変位)に反応してエネルギーを吸収する装置です。壁倍率を持つため、耐力壁としても機能します。
ただし、重要な特徴があります。
・地震初期(建物変形が小さい段階)では、耐力壁として機能する
・建物が大きく変形して損傷し始めてから、制振装置として機能する
・剛性(変形しにくさ)が高くなりすぎると、制振装置として機能するタイミングが訪れないこともある
つまり変位依存型は、建物にある程度のダメージが蓄積してから初めて制振効果を発揮する構造になっています。
速度依存型(壁倍率「なし」)
揺れの速さ(速度)に反応してエネルギーを吸収する装置です。壁倍率は持たないため、耐力壁とは別に設置します。
・地震初期(建物変形が小さい段階)から、制振装置として機能する
・建物へのダメージが蓄積する前から揺れを吸収できる
・繰り返しの揺れに対しても安定した効果を発揮する
速度依存型は、建物が損傷する前の段階から揺れのエネルギーを吸収し始めます。
■ なぜ速度依存型が推奨されるのか
この2種類を比較したとき、木造住宅の制振装置として速度依存型の方が優れた特性を持っています。その理由を整理します。
・小さな揺れから機能する
日本では中小規模の地震が頻繁に発生します。速度依存型は揺れが始まった段階から機能するため、日常的な揺れから建物を守ることができます。
・建物へのダメージが蓄積する前に機能する
変位依存型は建物がある程度変形してから機能します。これは逆に言えば、建物に損傷が生じてから初めて制振効果が出るということです。速度依存型はこの段階より早く機能します。
・繰り返しの揺れに強い
南海トラフ巨大地震のような大規模な地震は、本震の後に長期間にわたって余震が続くことが想定されています。速度依存型は繰り返しの揺れに対しても安定した性能を維持します。
変位依存型にもコスト面での優位性はあります。ただし性能・持続性・機能するタイミングという観点では、速度依存型の方が住宅用制振装置として理にかなっています。
■ 制振装置を選ぶ前に決めるべきこと
制振装置を検討する際に、根本的な問いがあります。
「住み続けられる家を目指すのか、命だけは守る家を目指すのか」
耐震基準の最低ラインは「命を守ること」です。しかし大きな地震の後に建物が大きく損傷し、住み続けられなくなるケースがあります。
「住み続けられる」ことを目指すなら、許容応力度計算による耐震等級3を確保した上で、速度依存型の制振装置を組み合わせることが、現時点での最善の選択肢のひとつです。
この方向性を明確にした上で、制振装置の種類を選ぶことが重要です。
■ 制振装置を検討する際に確認したいこと
住宅会社から制振装置の提案を受けた際に確認したいポイントをまとめます。
・耐震等級3は許容応力度計算で取得しているか?
制振装置より先に、この確認が必須です。
・速度依存型か変位依存型か?
どちらの種類の制振装置か、明確に説明できるかどうか。
・制振装置がどの段階から機能するか説明できるか?
感覚的な説明だけでなく、機能する仕組みを根拠とともに説明できるかどうか。
「制振装置を搭載しています」という一言だけでなく、種類と機能する仕組みを確認することが、正しい判断につながります。
■ 私たちの考え方
私たちは、すべての家に許容応力度計算による耐震等級3を採用しています。これは交渉の余地のない前提条件です。
その上で、繰り返しの揺れへの備えとして、速度依存型の制振装置を組み合わせることを推奨しています。「住み続けられる家」を目指した場合、この組み合わせが現時点での最善だと考えているからです。
「なんとなく安心」ではなく、根拠を持って説明できる耐震性能を提供することが、私たちの家づくりの出発点です。
耐震性能や制振装置について、もっと詳しく知りたい方はぜひ一度ご相談ください。図や計算書を用いて、わかりやすくご説明します。
■ 最後に
地震対策は、順番と組み合わせが重要です。
まず許容応力度計算による耐震等級3。
次に速度依存型の制振装置。
そして根本的な問い。「住み続けられる家を目指すのか、命を守ることを最低ラインとするのか」。
この方向性を自分たちで決めた上で、住宅会社に確認する。それだけで、家づくりの判断精度は大きく変わります。
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